小さなレストランで
この国際学会中に、スイスのボスに研究ディスカッションする時間をもらっていた。
今の大学で行ってるプロジェクトが予想外の結果を示していて、第一人者のボスの意見を聞いてみたかったのだ。
ボスと落ち合い、狭い路地の小さなレストランに入った。ランチタイムは終わっていて、飲み物だけ注文して話を始める。
初めて会った時と変わらないボスの物腰柔らかな感じ。しかし明確に彼は変わった、ポスドクの人数は激増し、研究結果も最低ラインがJACSになりつつある。かなりビッグになった。
近況の報告がひと段落するときに、今は自分が入った時とはかなり状況が違うねっていうと、ボスも「それは君もそうだろう」と言ってくる。確かにそうだ、たいした結果がない状況でラッキーでボスのラボにポスドクとして入れた自分が、今では学生を指導する立場にある。
全てはただ偶然の巡り合わせだった。単純に研究内容の興味だけで選んだのに、こんなにいいボスに巡り会えたなんて奇跡みたいなものだ。
自分たち以外客のいないレストランは静かに時が流れる。これまで集めたデータと、自分たちの考察を述べると、かなりポジティブなフィードバックが得られて安心した。
そして、「この内容なら彼と話した方がいい」といって学会に来ていた別のビッグガイをお勧めされて、次の日ディスカッションをさせてもらう機会を強引に作ってくれた。
そのビッグガイも面白いと言ってくれて、かなり実りのあるディスカッションになった。アピールとしてはかなり成功したと思う。(内容的に売り込みに成功するからこそボスが紹介してくれた感じはする)こうして新たに始めた研究に確かな手応えを得た。
正直にいうと、少し悩んでることがある。このスイスのボスほど、自分が自分のチームに貢献できていないんじゃないかということだ。この物腰柔らかで、決して「もっと実験しようぜ」などと言わずともメンバーが喜んで研究をするボスのチームを理想としていたのだけれども、どうやら自分はそこまで上手くできていないようだ。
ボスに相談しなくても彼のいうことはわかる。「時間がかかる、だんだん良くなるはずだし、自分も最初の頃のメンバーは今ほど良くなかった」というに違いない。
そうだといいけど。
最善を尽くしてきたつもりだった。僕の指導方針は今の日本の学生のためになっていないのかもしれないのだ。
ポスドクの時より、学生を見るようになってからの方がボスの背中は遠くなったような気がした昼下がりだった。
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