海外の研究コミュニティで話題になっていたNatureの記事を紹介します。

画像はNatureの解説記事(‘Disruptive’ science has declined — and no one knows why)からの引用です。


それは「Papers and patents are becoming less disruptive over time」というタイトルの論文です。ここ数十年で研究やテクノロジーはこれまでにないほど進歩した、という誰もが思いがちの事実と思われることが、一部の主要な研究分野では実は進捗は遅くなっているという指摘を、過去60年の論文4500万報の論文と390万件の特許のその引用のデータ解析とあらたにCDインデックスという指標を提案して調べた論文になります。



このCDインデックスはその論文や特許がどれくらいこれまでの引用の流れを断ち切るような発見であるかを明らかにする性質を持たせた解析手法とのこと。詳しいことが気になる人は原著論文を見てほしいのですが、このCDインデックスとは壊滅的な論文であれば、その論文が引用している論文まではすでに引用する必要を失っているという仮定を基盤に、それぞれの論文を発表から五年後までに引用し発表された論文が被引用論文自身が引用する論文を含んで引用しているかどうかで、流れを断ち切るような論文を破壊的発見と位置付けている。


例えば、コーンとシャムによる密度反関数の理論的解釈は、前人の発見をより強固にする性質がつよい。ワトソンとクリックのDNA二重らせんは前人の予想がつかない構造を画期的に報告したとして、前任の発見は後続論文では些末なことになりうる。両者とも発表後5年間の引用数はかなり高い一方で、コーンとシャムの論文のCDインデックスは-0.22で低くワトソンとクリックは0.62と高い値を示し破壊的発見であることを反映しているのだとか。


そして得られたCD値を平均化して年代に対してプロットすると生命科学、科学、社会科学、工学のどの分野でもCD値が一様に減少している。この分野横断型の減少は他の研究者がしばしば取り上げる、まだ未解明な部分が多く残る生命科学や長い歴史でかなり積みあがっている物理でも同じということで、「ある特定の分野がやりつくされて重箱の隅をつつき始めた」ことを否定する内容である。


また、出てくる語句の解析もしたところ、発見を重視する語句が多かった昔に比べ、改善や応用を示唆する語句が増え、それと同時に単語が画一化されていきオリジナルな名詞が減ったとのこと。この点に関しては、日を追うごとに語句の整理がなされてコンセンサスを取るように用語統一や準拠の勧告が出されるようになったので一概にそうとは納得はいかないかなあ。


この語句の問題はScienceやNatureなどの超一流誌に限ると弱い相関になるが、それでもそんな超一流誌のCD平均値でも減少していることに変わりがない。


これらの原因としてさらなる解析では、知識の増加量が著しいため古い知識から新たな知識に速やかに移行できなくなっていることを指摘している。また、古い手法の利用、分野の多様性の欠如、個人の研究の自己引用が多い場合、破壊的発見の低下と相関がみられる。


上記の報告は、おそらく肌感覚として正しいと思う研究者が多いだろう。ただ、途上国の急速な論文数の増加やそれらがイノベーションにどれくらいの寄与があるかなどはおそらく政治的理由でノーコメントなんだと思われる、そこも気になるところ。


最後に、筆者らはCD値が大きい論文の総数自体は減っていなくおおよそ一定であることを挙げ、科学自身が行きつくところまで行ったわけではないとして、単純に見つけにくくなっている可能性を指摘した。サバティカルや時間的、金銭的な余裕が効率的な学術の発展に必要ではないかと結んでいた。


その通りだなあ。余裕がないと、こんなこと考えないで論文出さなきゃってなるし、実際本当にDisruptiveな研究を狙ってる割合もどんどん減っているんじゃないかな。


さて、選択と集中でこの著しく割合として減ってきた破壊的イノベーションを見つけられますか?って話だと思う。科学技術政策はもっと平等寄りに戻し現場の自由時間を大切にしないと、大きな発見はどんどんなくなっていることはデータを見るに真に近いだろう。