九州大学が指定国立大学に採択されて10校になったようだ。この指定国立大学、国際的に競争力のある大学に特別な支援をする制度のようです。

日本の国立大学は86校ほどあるので、10%ちょっとが指定されたことになる。こうやって政府の指定や競争的資金をえるために、文科省の評価をあげるように大学間競争を仰ぐことは法人化の意図と明確に反する。

今回はその交付金などの資金状況と大学運営の法人化の考察をしてみたい。

大学法人化後は運営費交付金は全体として削減、その代わりの科研費は選択と集中により指定国立大学に主に分配される。つまり、大学は各校ごとの独自性を追求して戦略を練ることを期待されて法人化されたのだが、その結果は大学間の研究費の取り合いをしただけになる。運営の資金源を見てみよう。

H17と比べて令和1年はおよそ8000億円の増収である。

およそ運営費交付金は据え置き~微減なので増収分は大学付属病院の運営利益(クリーム色)と民間からの受託研究費や寄付金(紺色)などだ。

ちなみにこの間、森永のチョコボールは値上げをした。笑 

他にもガリガリ君ですら値上げをしているのでインフレが若干起こっている。一方で日本の平均年収は上がっていない。

下図はチョコボール値段と内容量

2004年時点25g60円
2007年12月~25g70円
2014年7月~24g70円
2016年3月~28g80円

機械や経費削減などを盛り込んでも平成16年は2.4円/gが今は2.8円/gで16%ほどの値上げである。今回使ったチョコボール指数や、ほかの税収・支出の増加傾向からも、日本の相対的基盤研究費の削減が見て取れる。


さて増えた病院収益は医学系部局の頑張りに他ならない、本当にありがとうございます。

問題は企業の研究助成だ。

日本の企業の研究開発力に陰りが出てきているのだろうか。状況の好転を狙って島津製作所はたくさんの社員を社会人の身分で博士課程に進学させるという選択をとっていることがニュースになっていた。

そのほかにも、企業からの資金流入を見てとれるように、大学の学位と研究成果に一枚かむために企業は大学への出資を押しているようだ。最近企業に修士卒で行った同期が出身ラボに少額寄付金(100万以下)と共同研究を締結をすることで博士の学位を手に入れに行く画策の相談を受けた。

彼曰く、中規模以上の企業で行われる他の研究開発費に比べれば100万円なんてはした金だし、それで大学と共同研究実績と学位や大学によってはその寄付金額が多ければ特任教授ー特任准教授の肩書と研究室が得られるらしい。大学の共同研究実績はそのほか経産省などからの助成金獲得にプラスに働く。それらが得られるなら大学への流入金は、はした金なのだそうだ。ちなみに出身ラボを選んだ理由は研究内容ではなく、勝手知ったるラボで自由にやりたいのと、地元なのでそこでしばらく暮らしてゆっくり楽しみたいのが目的のようだ。。。

さて、僕は深入りはしなかったが、これでいいのか日本の企業と大学。

企業は目先の補助金や企業の本質とは異なる学位の取得にかなりの労力を割いているように見える。一方で企業にとってははした金だが、大学にとってその増額はかなりの重要性を占める。だって文科省(内閣府?)が自立した経営をできることをかなり推しているんだもん。

ここで、一番の犠牲は、大学院生の研究活動であろう。

この100万円が企業から研究室に入るためには大学院生1-2人程度の研究が企業との共同研究になる。そのエフォートは企業の利益とラボ運営教授の外部資金獲得というものに吸い取られて、正味、学費を払って企業のためにただ働きしていることになる。それで企業の研究者には数報の論文とそののち博士を与える。大学の切り札である学位授与をとても安く売りさばいてしまっている。

これも仕方がないのだ。大学は外部資金の獲得状況とどれくらい文科省の提言を守っているかは、指定国立大学やそのほか大型補助金の順位付け、運営費交付金の増減の決定に直結する。

さて、あなたが企業研究者なら、同じ百万で共同研究ができるなら、東京大学や京都大学を選びますよね?実際上位国立大学のほうが寄付金が多くなるのは当然です。

この図、地方の病院が格別にもうかってるんじゃありません。地方大学の運営費交付金と外部資金が病院収入に対して低いということになります。つまり同じように医療を受けている人々がいる地域(生活規模比)で如実に教育・研究助成格差が生まれています。


また、それらの結果が外部資金の文科省からの配分の大小も握っているとなると、法人化後に起こったのは(大学病院の収入以外は)資金調達の圧倒的格差社会です。企業と文科省からアピールを繰り返し金をとってくることを余儀なくされました。

選ばれた側がほとんどすべての実権を握るので、選ばれない側の声は届きません。10%ほどの指定国立大学の先生たちで占められるほとんどすべての評価委員会。自分たちの手腕が間違っていると認めるはずありません。90%の選ばれない国立大学の教職員の意見はきっと届かないのでしょう。

どこまで行ってもこのやり方では、大義名分とされる大学の自治に基づく自由競争は生まれず、これまでの階級をさらに強調し、内閣府か文科省かしりませんが彼らの意図するような順位になるよう、競争主義に見せかけた他の強い力が生まれているのではないでしょうか。

さて、今回の九州大学が採択が東京医科歯科や筑波より遅れた理由は何なんでしょう?

それは申請時に設けられた国際性の足切りです。つまり自由競争で敗れたわけはなく、そのような指標を入れているので、当初の思惑として九州大学を選ぶつもりがなかったわけです。要件の中に上でのべた企業からの外部資金獲得状況もあります。10校のうち東北名古屋九州を除けば関東関西に集中している。名古屋博多仙台も大都市であるが、結局地方再生とうたいながら逆行していっている。羊頭狗肉。

どの指標を用いたかわかりませんが、筑波大学と九州大学だとどう考えても九州大学のほうが国際的なプレゼンスも研究力も高いというのは疑いようはない気がしますが。。。少なくとも化学は。


さて10校でしばらく指定国立大学は打ち止めらしい。同じく有名大学(だった?)の北海道大学は指標を満たせず申請もできなかった。世界大学ランキングでは北海道大学も九州と同程度のランクで筑波や東京医科歯科、一橋に負けることはほぼない。どんな指標を用いたのだろうか。それなりの数値的解釈は公開されているんだろうけどあんまり深入りする気にはならないので今回はこの辺にしよう。パワハラ前総長が文科省とドンパチやりあったせいだとか陰でいわれているらしいですが果たしてどうでしょうか。僕は事実や報道以上のことはなにも知りません。

まあ選ばれないのを皮切りに、むしろ吹っ切れて独自の方針で飛躍するかもしれないですね。日本のこの流れの中だと。

10校に選ばれるかを争うのではなく、大学は一体となり、すそ野の広い学問の確保を訴えたほうがいいと思います。日本を支える人材の輩出機関が10校だけしかなくなる前に、地方に根付いた優秀な人材育成にお金を等しく払うべきです。大学教育を受ける権利のある学生総人口に対し、過度な競争主義を税金からの助成金配分の考慮に入れるべきではないと思います。

ふぅ。

忘れてたけど、これスイスポスドクブログでした。

スイスの人口は860万人ほどで、どのランキングをみるかでもちろんばらつくが、大学ランキング200位以内に入るのが7校程度ある。全部で公立大学は12校です。2校は国立でのこりは州立。

日本の人口をみると1.2憶人でスイスの14倍ほどあります。国土も10倍ほど。国立大学は86付近なので人口比ではスイスよりもやや少ないことになります。スイスには私立大学はないので、日本でいう私立大学への助成金をスイスは分散せずに公立大学に集中的に注入していることになると思います。日本がとる上位大学を10校に絞るという選択はスイスでは1校に絞ることに等しい。ETHの1校を指定して補助を全振りして世界ランク100位内を目指します。といっているのと同じ感覚になります。こう聞くと暴挙ではないか。相変わらずの選択と集中。はたしてこれでいいのかなぁ?




図の出典

国立大学法人運営費交付金を取り巻く現状について:文部科学省高等教育局 国立大学法人支援課(https://www.mext.go.jp/content/20201104-mxt_hojinka-000010818_4.pdf)

チョコボール(ピーナッツ)の値上げ情報:値上げ忘備録(https://neage.jp/syokuhin/kashi/morinaga_chocoball1.html)

指定大学の資金状況:日刊工業新聞2017年5月4日