捏造で論文撤回のニュース記事、反響がすごい。おそらく前のNature撤回を出したラボと合わせて相乗的に盛り上がってるようだ。実際前の責任著者の1人は偶然にも今回のラボ出身者だ。どのケースも犯行をした筆頭著者1人以外は捏造を意図してないにしろ、憶測を加速させてます。

いろいろな意見を見聞きしたなかで、①一般市民の声と②修士か学部までで企業に行った研究室経験者と③博士課程以上の実際の研究者の間での認識の齟齬が物凄くある。

①一般市民は、深く調べないで、報道に出ている教授が捏造をしたと思っているようだ。まあ自分も研究室に入るまで、教授は基本的に実験はしないとは知らなかった。ガリレオの湯川准教授みたいに実験の手ほどきをして一緒に測定をするなんて事はまずない(あんなにイケメンな事はもっとない) 。実質的にはポスドク以下のラボ構成員でルーティンワークと実験をこなして、その結果を教授たちと議論し、追加実験や論文執筆を考えたりする。そこで彼らの捏造を見抜けなければ、今回のような結果になるのだ。めちゃめちゃにうまくやられたら捏造データからはまず気づけない。日頃からの信頼関係とメンバーの質や徹底的な追加測定が重要です。今回も前回も教授の先生が悪意を持ってやったとは到底思えない。実際他の仕事は再現できるし、すごい結果をかなりの数報告しているのは揺るぎない。

②学部、修士までの人はラボの実態は知っている。彼らはなぜか上から目線な感じで、あー、あそこそういうラボなのねっていう感じのリアクションです。厳しいラボだと知っている人は、先生のプレッシャーに耐えられなくなったのか、将来のポジションを気にしてやってしまったのかを疑います。大学の研究室にいい思い出がない人も多く、人の不幸は蜜の味なコメントが多い気がします。

③同業者たち。視線がリアル。マジか…というリアクションです。有名ラボが捏造をすると社会の風当たりが強くなる。検証結果の捏造箇所を見て、自分達のラボでやられても気づけないと思い明日は我が身と震えたり、科研費がもらえない人たちは捏造するような質の低い研究員を雇うほどお金を持っていることを羨ましく思う人もいるだろう。書類仕事や義務がまた増えるかも知れず、身構える人もいるだろう。ただでさえ厳しい状況のアカデミアにさらなる闇が襲いかかってくるのをひしひしと感じます。


そしてニュースのコメント欄は恥知らずとか、馬鹿大学にそんな世界トップ拠点はいらないとかこき下ろすような書き込みや、税金でなんて事してくれるんだ!という怒りのコメントで溢れかえっています。

99%以上の研究者はちゃんとやっている。そのラボ出身の博士たちもかなりの数いて企業やアカデミアで活躍し社会を支えているのに、1人のスーパー捏造者を見抜けなかった事によって恥を知れとまで罵られるのは流石に行き過ぎじゃないだろうか?

少なからず、匿名のそれらの人より社会への貢献度は高いと思う。リスクをとり博士へと進学して、なんとか研究室を構えて、何度も実験の失敗を乗り越えて色々な発見をして、その過程で人材をそだててきたのに、1人の論文不正を見抜けなかった失敗をここまで社会から叩かれるなんて、つくづく大学の研究者って損な役回りだなあ。税金使ってっておっしゃるけど、選択と集中マネーのない人はどんどんお金削られていってますしね。ノーベル賞取ったときやっぱり日本の科学はすごい!とこっち側に擦り寄ってくるのはやめていただきたい。

「論文撤回とその後」でも書いた前回のネイチャーのさらの前の論文撤回の人の時は少なくともここまで社会に報道されていなかった。名前は伏せて報道されていた。今回は名前も出されてコメントまで求められている。ここ数年で報道による罰はエスカレートした。だが実質的な解決策は未だ見えない。今でもまだお金が有り余ってて忙しすぎて時間がほぼない人(捏造報道があるのは大体こっち)と、研究時間はそこそこ取れてもお金がなくて始まらない人(追試されないし捏造も追求されるほどの研究結果がない)の両極化が進んでいる。もう少しフラットにして入り口(博士課程進学の質と助教公募の公平性)の競争をもっとしっかり評価する改革をしないと、捏造は止められず私刑のような報道は加熱して、大学と研究の荒廃は速度を増すだろう。


前のブログ記事で撤回の重さが軽くなってきたというのに若干文句を言ったが、それはほとぼりが覚めた後の研究コミュニティ面や資金調達面での影響の話。報道や一般からの視線は間違いなく厳しくなってきているようだ。

僕は研究者が一般市民に罰せられる必要はないが、研究コミュニティはもう少し厳しく取り扱った方がいいと思う。現状と逆だ。


日本の大学、学術界隈にたまには明るいニュースよこい!!