Nature Indexが2017年に出した、ここ10年で日本の科学が失速していると言う批判がある。2005年と2015年の出版論文数を見るとかなりの衰退が明らかになった。(https://www.natureasia.com/ja-jp/info/press-releases/detail/8622)

解析ではざっくりと1)研究費が他の国が増加していくのに対して日本は横ばい。2)40歳以下の任期付き研究員の増加。3)若手研究者の独立への意識が弱い。3点が理由として挙げられている。以下それに関する化学系海外ポスドクの思ったことです。

1)に関して、化学の論文のデータ量や必要な測定は2005年と比べて格段に上がっている。装置の値段も高くなってきていて、お金の問題は深刻であるのは間違いない。でも装置を持ってる知り合いは絶対に探せば見つかるので、忙しくさえなければ選択と集中が研究を絶対的にできなくすることではないと思う。他の解析では東大、京大の論文は減ってないが有力国立大学の第二第三層の大学の論文数が減ってることが指摘されている。選択と集中が10個程度以外の論文生産性を大きく減少するほどに影響を及ぼしてるんだろう。閉塞感は恐ろしいが、でもまだ論文を書けないほどではない。


2)の任期付き研究員問題に関して、1)よりも問題だと思っている。

僕は40代以下の任期付き教員が多いこと自体は大きな問題ではないと思う。むしろ助教は全部任期付きかつPIで、問題がない人物は任期終了時の審査で准教授に100%で昇進or基準を満たせなかったり人間性に問題がある人物は打ち切ることが必須だと思っている。

問題は、しっかりと研究をできる任期付きの独立ポジションが少ないこと+任期があるのに上に任期のない人たちが詰まっていたら、その大学での昇進がほとんどの場合でできないことだと思う。

2007年の改正で助手・助教授は助教・准教授へと名前を変えて、助教には任期がつけられるとともに自身の研究をある程度の裁量で行えることが明記された。しかしながら化学では、論文を出している一層の大学群ほど、依然として教授ー准教授ー助教+場合によっては特任助教数名という講座制を維持している。助教公募には「XX教授と共同で研究を進められる人」という文言がかなりの確率でついてくる。

教授が定年退職しない限り、昇進はない。そのため現在勤める大学外でのポジションを探すが、このことが研究生産性を下げていると感じる。助教は5年ほどの任期が終わったとき、昇進も外部転出もできなくて、任期をさらに5年延長というのをよく見る。クビには忍びなくてできないし、昇進させるほどではない、ということで情けでの任期延長だと思われる。そして教授ー准教授ー助教の比率がコントロール不能になる。

「XX教授と共同で研究できる人」と募集してるので、必然、若手自身の研究オリジナリティーや研究室を回す力がなくても助教になる。むしろ日本の化学系の助教はそれを学ぶ期間だと思われている節すらあると思う。なのでポスドクを経ないですぐに助教になるし、海外に出る選択肢の必要性が低く内向きになりやすい。

3)必然として独立心が強いかどうかのパラメーターで若手の選定が行われていないのである、そりゃあどう調べたところで若手が独立したがっているというデータは出てこないだろう。日本にいてすぐ助教になってたらおそらく自分も日本のシステムに何の疑問も抱かず、せっせと教授の匂いのする自分の中では[自分の研究]と思うような研究で論文数を稼ぐ日々になっていただろうと思う。

しかし、外国人のポスドクなかまがどんどんPI助教となり世界各国で研究室を始めていくのを見ると、やっぱり自分も自分で研究室運営したい!

日本の助教になって、教授にラボに雇っていただいて、自分のテーマもやっていいよと言っていただいて、学生を一人できれば分けていただいて、論文を長い時間待って見ていただいて、著者リストの最後のポジションと責任著者になっていただくなんて今となっては苦痛すぎて多分もうできない。

僕は独立PI助教になりたくてギラギラしている、でもこれが生き残りにつながらない構造なので、3)の問題点は指摘するのはいいがそれは原因はそれではなくて、大学教員の人事構造から生まれる結果であると考えている。


何でこんなエントリーを書いたのか。4月で知り合いの准教授数名が別の研究室にまた准教授として移ったのを見聞きした。その理由が元いたラボの教授が定年退職になってラボが閉鎖されるから。こんなことやってて研究の競争力が上がるわけない。

すべての助教と准教授を教授の既得権から開放しろ開放しろ開放しろ。博士取りたてでPIはほぼできない、助教前にポスドク2個所をほぼ必須にして、特任助教、特任准教授は廃止、問題のない助教はテニュアトラック後に昇進するシステムにしましょう。でないと若手がしっかりと研究を自由な発想で遂行できる形にはなりえない。海外での長期経験がある教授、海外の共同研究者がいらっしゃる教授、今の日本のシステムはおかしくないですか?助教、准教授を駆使して行う研究は楽しいですか?


すごく優秀な教授のもとにいた准教授、助教が独立して同じかそれ以上に研究ができるかの評価って難しいと思う。優秀な教授のもとポスドクとして短期間で修行して、早い段階でそれをテニュアトラック助教で試すしか、ノーベル賞のボリュームゾーン(35-40歳)の研究結果が若手の自由な発想になることはない。


春ですねえ。異動の季節です、自分の研究の都合や希望に関係なく異動を余儀なくされる先生たち、自分の出したいテニュアトラックポジションがない点をみてなんだかなあと思っている今日この頃。

2017年からもう5年が経ってる、具体的な対策と効果はいかに。